こんにちは、今回は降雨量から流域の流出量を算定する合理式について、その際に必要になる「洪水到達時間」について良く知られている「ルチーハ式」「クラーヘン式」「土研式」の各式にて算出した場合どのような流出量になるかを調べてみようと思います。
降雨から流出するイメージ
降雨から河川に流出するイメージを分かりやすく書くと下手な絵ですが下記のようになります。雨が降ってそれが低いところへ移動して河川に流入し、その後河川を流下します。降った場所が山地や水田、市街地といろいろな場所に降りますが、それぞれの場所で河川へ流入する量が違ってきますので、それも考慮してみたいと思います。

計算条件
先ほどのイメージ図を平面図にしてその中に計算に必要な条件を記載しました。また、合理式の計算式も示します。
流路長(L=7.0km)は「中小河川計画の手引き」にもあるように流域から流入域2㎞2(下図ハッチ部)を除いた流域の最遠点から流量検討地点までの流路の距離としています。


流出係数
まず、流出係数ですが、冒頭でも書きましたように「山地」「水田」「一般市街地」の各箇所では雨が降って流出する度合いが異なるのでそれを各流域面積で加重平均し、流域平均の流出係数を設定します。
密集市街地 | 0.9 |
一般市街地 | 0.8 |
畑、原野 | 0.6 |
水田 | 0.7 |
山地 | 0.7 |
合理式の流出係数(河川砂防技術基準(計画編)P.19)
下記に各流域面積で加重平均した流出係数を示します。計算結果は0.71ですが、将来の土地利用変化に関する安全を見込んで、0.75とします。
No. | 流域面積(km2) | 流域面積 市街地 【0.8】 | 流域面積 畑 【0.6】 | 流域面積 山地 【0.7】 | 流域面積 水田 【0.7】 | 平均的な 流出係数 | 採用した 流出係数 |
1 | 30.00 | 4.00 | 0.00 | 18.00 | 8.00 | 0.71 | 0.75 |
流出係数(加重平均)
【 】内は土地利用ごとの流出係数で、河川砂防技術基準(計画編)による
洪水到達時間(クラーヘン式)
洪水到達時間は以下とします。
洪水到達時間 = 流入時間 + 流下時間
山地地域 | 2km2 30分 |
特に急斜面区域 | 2km2 20分 |
下水道整備区域 | 2km2 30分 |
流入時間
②流下時間
流下時間は以下のクラーヘン式にて流路勾配が1/70であるためW=3.5m/sとして計算すると33分と計算されました。計算結果の単位を分にするため式に×60を追加して加筆修正しています。
T = L /(W × 60) = 7000 /(3.5 × 60)= 33(min)
T:流下時間(min) L:流路長(m) W:洪水流下速度(m/s)
I(流路勾配) | 1/100以上 | 1/100~1/200 | 1/200以下 |
W(洪水流下速度) | 3.5m/s | 3.0m/s | 2.1m/s |
洪水流下速度(河川砂防技術基準(調査編)P.88)
③洪水到達時間
したがって、クラーヘン式による洪水到達時間は下記より63分となりました。
洪水到達時間 = 流入時間 + 流下時間 = 30 + 33 = 63(min)
洪水到達時間(ルチーハ式)
①流入時間
流入時間は、クラーヘン式同様に、山地地域の2㎞2 30分とします。
②流下時間
流下時間は以下のルチーハ式にて得られたW=1.56m/sにて計算すると75分と計算されました。式の分単位の加筆修正あり。
T = L /(W × 60) = 7000 /(1.56 × 60)= 75(min)
W= 20(H / L)0.6 = 20 × (100 / 7000)0.6 = 1.56(m/s)
T:流下時間(min) L:流路長(m)(常時河谷をなす最上流点までを考える)
W:洪水流下速度(m/s) H:流路高低差
参考)中部地方整備局砂防施設設計要領(R2.3)P.5-3 河川砂防技術基準(調査編)P.88
③洪水到達時間
したがって、ルチーハ式による洪水到達時間は下記より105分となりました。
洪水到達時間 = 流入時間 + 流下時間 = 30 + 75 = 105(min)
洪水到達時間(土研式)
土研式による洪水到達時間は河川砂防技術基準(調査編)P.89より以下の式になります。式の分単位の加筆修正あり。
都市流域 T=2.40×10-4 (L/√S)0.7 × 60
自然流域 T=1.67×10-3 (L/√S)0.7 × 60
T:洪水到達時間(min) L:流域最遠点から流量計算地点までの流路長(m)
S:流域最遠点から流量計算地点までの平均勾配
洪水到達時間は都市流域と自然流域のそれぞれの面積比の按分により流域平均到達時間を116分と求めました。
流路長 L(m) | 流路勾配 S | 都市流域 到達時間 T(分) | 都市流域 面積比 | 自然流域 到達時間 T(分) | 自然流域 面積比 | 流域平均 到達時間 (分) |
8500 | 28 | 26 | 0.13 | 130 | 0.87 | 116 |
流域平均到達時間
流出量(計画高水流量)
流出量はクラーヘン式、ルチーハ式、土研式について洪水到達時間から降雨強度を計算し、合理式に代入することで求め、下表にまとめました。降雨強度式は仮に設定しています。それぞれについて計画高水流量を求めるとクラーヘン式では最も多い流量で320m3/sとなり、ルチーハ式は240m3/s、土研式は220m3/sとクラーヘン式の7割程度の流量になりました。
洪水到達時間 計算方法 | 洪水到達時間 (分) | 降雨強度 (㎜/hr) | 流出係数 | 流域面積 (km2) | 計算流量 (m3/s) | 計画高水流量 (m3/s) |
クラーヘン式 | 63 | 49.9 | 0.75 | 30 | 311.9 | 320 |
ルチーハ式 | 105 | 37.2 | 0.75 | 30 | 232.5 | 240 |
土研式 | 116 | 35.1 | 0.75 | 30 | 219.4 | 220 |
降雨強度式 | C/(tA+B) | |||||
A | 0.724 | |||||
B | 6.403 | |||||
C | 1321 |
流出量(計画高水流量)
まとめ
合理式にて流出量を算出するための洪水到達時間についてクラーヘン式、ルチーハ式、土研式で比べてみました。
河川砂防技術基準(調査編)P.88ではこの3つの方式について記載されていますが、河川砂防技術基準(計画編)P.19ではクラーヘン式を用いる旨の記載となっています。その中で「ルチーハ式は過小な値を与える」とされています。また、中小河川計画の手引きP.58では「ルチーハ式は我が国の河川に適用すると洪水到達時間が過大に算定される傾向にあると報告されている」と記載があります。ルチーハ式はバイエルン地方公式(おそらくドイツ)とも呼ばれているようですね。P.59では「クラーヘン式による洪水到達時間は、土研式によるものよりも小さめを与えることが多い」と記載されています。今回の計算結果の比較では、これらの文献に記載されているものと同様の結果となりました。
また、その程度がどれくらいであるのかが概ね理解できたと思います。今回の事例では流出量はクラーヘン式に対して、ルチーハ式、土研式は7割程度の流量になりました。中小河川計画の手引きP.165での計算例では6割になっています。かなり違いますね。常に安全側を意識する上ではクラーヘンで計算したいところではありますね。技術的には実際に近い洪水到達時間となるよう選定することが重要だと思うところです。
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