基礎地盤の許容鉛直支持力を一般値と道示式で比べてみた

土質

 こんにちは、基礎地盤の許容鉛直支持力ですが、土木設計で良く検討されるのは擁壁の設計の際ではないでしょうか。そこで今回は、許容鉛直支持力について「道路土工 擁壁工指針」に記載の「一般値」と静力学公式で導く「道示式」が考えられますが、それぞれの値は同じ条件の下では同じなのか、違うのかを検証してみたいと思います。「道示式」とはここでは「道路橋示方書の式」のこととさせてください。

基準の説明

 まずは、「道示式」ですが、擁壁設計の際には「道路土工 擁壁工指針」に記載があるように極限支持力を「「道路橋示方書・同解説 Ⅳ下部工編」の「基礎底面地盤の許容鉛直支持力」に従って求めるものとする」」と記載があります。この方法はテルツァーギの支持力公式を元に荷重の傾斜や基礎の寸法効果を反映できるようになされ、次の静力学公式で与えられます。

 次に、「一般値」ですが「擁壁工指針」では、上記に続いて次のような記載もありまして「斜面上ではない高さ8m以下の擁壁で、現地の試験を行うことが困難な場合には次の表に示す許容鉛直支持力度を使用してもよい。」とされています。擁壁の設計ではほとんどがこの値を使用しているのではないでしょうか。ここでは、下表の値を「一般値」と呼びたいと思います。下表は「道路土工 擁壁工指針」の一部のみ引用していますので、詳しくは本書を参照お願いいたします。

基礎地盤の種類許容鉛直支持力度
qa(kN/m2)
目安とするN値
砂質地盤
 密なもの
 中位なもの

300
200

30~50
20~30
粘性土地盤
 非常に硬いもの
 硬いもの

200
100

15~30
10~15

擁壁工指針の一般値

 ここで、一般値で記載のある値に対して道示式で計算した値と比べてどうなの?という疑問が沸いてきました。それで、今回は実際に道示式で計算してみようと思います。

道示式による計算(荷重傾斜なし)

 では、擁壁工指針で記載のある砂質地盤(中位なもの)の許容鉛直支持力度qa=200(kN/m2)を想定して、その地盤を道示式で計算してみたいと思います。

 まず、あまり無いケースかもしれませんが、荷重傾斜のないもので計算してみます。荷重傾斜がなければ単に地表に構造物が置いてあるだけで下図のようなケースとなります。

支持地盤の詳細な条件設定
支持地盤のN値:20(中位なものの下限値)⇒φ=35°(当ブログの内部摩擦角の計算より)
支持地盤の単位体積重量γ1:17(kN/m3)(擁壁工指針の「自然地盤ー緩いもの」より)
有効根入れ深さDf:0.5m
基礎の形状:長方形
荷重の傾斜:なし

 上記の条件で道示式で計算すると、以下になります。式中の支持力係数Nγ 、寸法効果の補正係数Sγ などの値は別途計算しております。

 計算の結果、許容支持力度は236 kN/m2 となり、一般値である200 kN/m2 より少し上の同等程度の値になることが分かりました。

道示式による計算(荷重傾斜あり)

 次に、一般的な擁壁を想定して、荷重傾斜が加わるもので計算してみます。土圧による水平力が作用して地盤に加わる荷重は傾斜します。今回は下図のようなケースとしましょう。この条件で荷重傾斜を計算するとtanθ=0.298になりました。また、荷重の偏心は0.253mになりました。この値は支持力に大きく影響します。

支持地盤の詳細な条件設定は、荷重傾斜なしの場合と同じです。上記の条件で道示式で計算すると、以下になります。

 計算の結果、許容支持力度は82 kN/m2 となり、一般値である200 kN/m2 よりかなり小さい値になりました。

 これだけ小さくなった要因は荷重傾斜による支持力係数の低下にあります。支持力係数は道路橋示方書に記載のあるグラフから読み取りますが、荷重傾斜が無い場合のNγ=35に対し、擁壁のように荷重傾斜がθ=0.298となった場合にはNγ=9とかなり小さくなります。またNqも同様に低下しますし、有効載荷幅Beが小さくなることも要因です。

まとめ

 今回のケースでは、許容鉛直支持力の一般値は、荷重傾斜のない条件の道示式と同等程度であることが分かりました。また、擁壁のように土圧が作用して地盤への荷重が傾斜したり偏心したりする場合には道示式においては、許容鉛直支持力がかなり低下することが分かりました。

 この違いをどういう風に考えるのかですが、私見ですが、一般値の場合の支持力照査に使用する荷重は「最大地盤反力度」となります。地盤反力は底面幅の中で台形分布になりますよね。その大きい方の値です。また、道示式での支持力照査に使用する荷重は「擁壁底面に作用する全鉛直力を有効載荷面積で除した値」と擁壁工指針には記載があります。分かりやすく言うと、一般値は荷重の最大値の照査であり、道示式は荷重の平均的な値の照査と言えると思います。そうすると、それぞれの値の違いが理解できるのではないかと思います。逆に荷重傾斜が無い場合は、道示式は一般値より余裕があることになります。荷重傾斜具合によって道示式は大きく変わるという事がわかりました。

 最初に一般値と荷重傾斜のない道示式とは同等程度になったと書きましたが、支持力照査に用いる荷重が違うので、本来比べられないものであると思いました。それぞれを比較することに、あまり意味が無いかもしれません。感覚として思う程度の話と思っても良いと思いました。また荷重傾斜がある場合(こちらが一般的)には、一般値と道示式の解は違う数値になることは当然であると考えることが出来るということが分かりました。

 また実際の計算時においてはこの照査に使用する荷重の違いに注意が必要であると思います。斜面上の支持力計算では、擁壁においても道示式を必ず用いるのでこれを念頭にするとよいのではないでしょうか。

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