今回は小規模吊橋について解説いたします。小規模吊橋はその名の通り小規模な吊橋で概ね橋長200m以下の吊橋です。主に歩道橋として利用されていることが多いですね。設計基準は日本道路協会の「小規模吊橋指針・同解説」になります。これによることから、「小規模吊橋」と呼んでいます。橋長200mは十分長いと思いますが、車が通ることができる瀬戸大橋などに比べればたしかに小規模ですね。設計はそれほど複雑ではなく、構造がシンプルでかつ吊橋ならではの美しいフォルムが特徴です。私は個人的にこの小規模吊橋がとても好きで、今までに3橋の設計をしています。その経験もあって小規模吊橋について解説したいと思います。
構造

小規模吊橋は、その名の通り吊橋です。その構造のほとんどがワイヤロープでできています。上図をご覧いただきますと「主索」「支索」「耐風索」「耐風支索」は全てワイヤロープでできています。まず、人が歩くための「床板」をたくさんの支索で吊って、それを主索につないで塔柱(とうちゅう)にかけて橋を渡します。主索は引っ張って固定するためアンカーブロックというコンクリートの塊で固定します。
風が吹くと床板が横や縦に揺れますが、それを防ぐために床板をたくさんの「耐風支索」と「耐風索」で斜め下方に引張って固定します。
次に小規模吊橋のメリットやデメリットを紹介したいと思います。
メリット
①良好な景観
小規模吊橋はワイヤロープで構成された主索と耐風索の滑らかな曲線美が特徴であり、とても美しい景観となります。
②設計費が比較的安価
条件にもよるとは思いますが、一般的には構造計算はそれほど複雑ではないと思います。また、通常の橋梁では下部工と上部工がありますが、これは地質が良い場所では基礎である下部工はとても小規模で済みます。概ね山間部で採用されることが多いため塔柱基礎は基礎地盤が良好である条件が多いです。小規模吊橋の設計で手間がかかるのは、主索と耐風索の曲線を描くことです。これは円弧ではなく、放物線に近い曲線となります。CADでは連続した曲線を描くのは難しいため折れ線で描くことになります。1つ1つの折れ点のx、y、zを明らかにして作図する必要があります。塔柱基部の地質調査を2か所と設計で数百万円だと思います。
③施工費が比較的安価
下部工の規模が小さいために安価で済みます。また上部工も揺れる構造ですが、軽量であるため鋼材量も少なく安価となります。私が設計した橋長30m程度であれば工事費は3000万円~4000万円もあれば可能であると思います。通常の橋梁の下部工と上部工を有する構造であれば1億円程度にはなるのではないでしょうか。
④工期が短い
私は自分で設計した吊橋の施工監理も行うという非常に貴重な経験をさせていただきましたが、とても施工が早いです。まるで住宅の建前をみているようです。私が担当したのは橋長が約30m程度でしたが、だいたい1週間でほぼ橋の形ができあがっていました。
作業の順番は、最初に塔柱を設置し、主索を渡してブランコのような支索と床板のセットを設置していました。その後、耐風索を取り付けて完成です。
デメリット
①揺れる
これは、吊橋なのでしょうがないのですが、歩く振動で揺れます。揺れないような構造もできます(補剛桁)が、揺れる程度では安価に橋を架けることが出来るメリットよりも費用をかけて揺れないことを優先することはあまり無いようには思いますが揺れないことからすればデメリットですよね。
②橋梁の端部にスペースが必要
橋梁の端部にはアンカーブロックという主索を引っ張って固定するための「おもり」が必要ですが、それに結合するため主索を一般的に斜め下方向へ張る必要があり、この部分の空間を必要とします。そのためこの橋と直角方向に交わるような歩道の計画には制約が生じます。
③平地部には不向き
塔柱には下向きの力がかかりますので塔柱の支持地盤は堅固であれば良いです。しかし、平野部の軟弱な地盤では杭基礎などの構造が必要であると考えられますが、それでは費用がかかり小規模吊橋のメリットが生かせません。
小規模吊橋特有の構造特徴
小規模吊橋特有の構造特徴として「塔柱基部構造」と「サドル構造」にあります。
①塔柱基部ヒンジーサドル部固定
塔柱基部が地盤との接点でヒンジ構造(回転する)となっており、橋軸方向に塔柱が前後に倒れる挙動ができるようにしておき、塔頂部のサドル(主索をかける金物)では塔頂部と主索を緊結して固定する構造です。塔柱と主索とのなす角度を塔柱の前後で変えやすい構造です。その角度を塔柱の前後で変えた場合には塔柱には曲げモーメントが作用しますが同じ角度の場合には曲げモーメントが最小に抑えられます。一般的にはこの構造が多いと思います。
②塔柱基部固定ーサドル部スライド構造
これは、塔柱基部が地盤と固定されていて、塔柱の頂部のサドルでは主索が頭部で自由にスライド(滑る)構造です。塔柱と主索とのなす角度は塔柱の前後で同じなのが基本と考えます。温度変化により塔柱頭部でワイヤがサドル上で滑りますが摩擦により塔柱に曲げモーメントが生じます。①の場合には塔柱は単純梁になりますが、この②では塔柱は片持ち梁になりモーメントが大きくなりやすい特徴があります。それでも小規模吊橋の中でもさらに小規模の橋長30m~50m程度であればこの構造で全く問題がないと思います。私は橋長30m~50m程度の吊橋でこの構造で設計しました。
また、私はこの構造にて山奥で河川を渡る吊橋として設計しましたが、建設会社様にて施工を完了して、その年の冬期間に雪崩が発生し床板や主索を雪崩が巻き込んでしまいました。その力で主索が過大な力で引っ張られましたが、塔柱の頂部のサドル上のワイヤがスライドするため塔柱は雪崩に巻き込まれず無事でしたし、主索も再利用が可能でした。その代わりアンカーブロックのコンクリートの塊が持ち上がり損傷を受けました。しかし、アンカーブロックのコンクリートの塊は現場打ちコンクリートの単純な構造なので、修繕は簡単でしたから、塔柱が壊れるよりはとても軽微な損傷ですみました。あと、耐風索は大きなコンクリート護岸に定着していたため切断されました。このような私の経験からすれば山間部で雪崩による損傷を受けやすい場合にはこのような塔柱が生き残る構造が有利になると思います。また一歩進んで、主索に過大な張力が作用した場合には主索端部の金具や耐風索端部の金具を計画的に破壊するようにすればもっと良い構造になると思いました。
まとめ

小規模吊橋は、山間部の歩道橋としてよく見られる橋梁で、とても曲線美が美しく最初にも言いましたが私は個人的にとても好きです。日本で一番長い小規模吊橋は静岡県にある箱根西麓・三島大吊橋で塔柱間隔が400mもあります。このような長い吊橋も可能なのですね。ただし、このような長い吊橋は多くはないですし、山間部の川を渡る場合では橋長がせいぜい30m~50m程度が多いと思いますので小規模吊橋を採用することでとても経済的に歩道が建設できると思います。また地域のシンボルとして、観光のシンボルとして活用できるのではないでしょうか。
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